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従業員エンゲイジメントを上げる前にやるべきこと|産業医が見る3つのレイヤー

  • 執筆者の写真: Nabefa
    Nabefa
  • 5月20日
  • 読了時間: 7分

こんにちは。産業医・心療内科医の薮野淳也です。


産業医として15社以上の企業で人事の方とお話していると、最近もっとも多い相談がこのテーマです。


「エンゲイジメントサーベイをやっても、数字が上がらない」


「1on1も研修も入れたのに、現場の手応えが弱い」


そう感じている人事の方は、決して少数派ではありません。


Gallup社の最新の世界従業員エンゲイジメント調査によると、日本でエンゲイジメントが高い従業員は2022年時点でわずか5%にとどまり、世界平均23%、OECD平均18%、東アジア平均17%と比較しても顕著に低い水準です(Gallup, 2024)。


つまり、何かを「やっている」企業は多いのに、結果は出ていない。


今日は産業医として、この「上がらない」現状の背景に何があるのか、そして何から手を打つべきかを書きます。


従業員エンゲイジメントを上げる前にやるべきこと|産業医が見る3つのレイヤー
従業員エンゲイジメントを上げる前にやるべきこと|産業医が見る3つのレイヤー

厚労省も、いま「働きがい」に本腰を入れている


2026年1月、厚生労働省から「働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル」が発行されました。


72ページの大型公的文書で、検討委員会の座長は慶應義塾大学・島津明人教授(日本のワーク・エンゲイジメント研究の第一人者)です(厚生労働省, 2026)。


このマニュアルは、エンゲイジメントを2種類に明確に分けています。


ワーク・エンゲイジメント:個人と仕事との関係。「活力」「熱意」「没頭」の3要素

従業員エンゲイジメント:個人と組織との関係。組織への貢献意欲・信頼感


両者は別概念ですが、同時に育てることが「働きがい向上」の鍵だと位置づけられています。


「うちの会社の課題はどっち?」をまず整理することが、施策の前提です。


エンゲイジメントが高いと、生産性は約2倍


厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』では、もう一つ重要なデータが示されています。


ワーク・エンゲイジメントが高い(スコア6)従業員と、低い(スコア2以下)従業員で、本人の感じる労働生産性スコアに約2倍の差があります(4.39 vs 2.37)(厚労省, 2019)。


経営層にとって、これは無視できない数字です。

また、厚生労働省が令和6年度に全国の企業10,000社を対象に実施したアンケート(約2,400社回答)では、エンゲイジメント向上の取組によって、「従業員の定着率の向上」「チームワークの強化」「仕事への意欲の向上」「業務効率の改善」という効果が複数の企業で確認されています。


さらに、60%以上の企業が「今後も継続して取り組みたい」と回答し、導入を検討している企業を含めると95%以上が前向きな姿勢を示しています(厚労省 2026マニュアル p70)。


公的データの規模感としても、もはや「やるかどうか」ではなく「どう設計するか」が問われるフェーズに来ています。



ただし、ここで多くの企業がつまずきます。


「だから、もっと働いてもらおう」「サーベイで把握してアクション」。


これだけだと、結局上がりません。


長時間労働 = エンゲージメント高い、ではない


厚労省マニュアルでも明確に書かれていますが、ワーク・エンゲイジメントと「ワーカホリズム(仕事中毒)」は別物です(島津明人 2022『新版ワーク・エンゲイジメント』労働調査会)。


ワーク・エンゲイジメント:活動水準が高く、心理は「働きたい」(肯定的)→ 持続可能で健康的な働き方


ワーカホリズム:活動水準は高いが、心理は「働かなければ」(否定的)→ バーンアウト(燃え尽き症候群)


同じ「ハードに働いている」ように見えても、心理状態がまったく違います。


そして、ワーカホリズムな組織では、サーベイで「やる気がある」と回答する社員ほど、3〜6ヶ月後にメンタル不調で休職するケースを、私は何度も見てきました。


つまり、「エンゲイジメントを上げる」前に、まず「健康的に上がっているか」を見る必要があるのです。


産業医視点で見る、上げる前にやるべき3つのレイヤー


私が産業医として15社で組織を見ている経験から、エンゲイジメントが上がらない企業には、共通の「土台不足」があります。


これを3つのレイヤーで整理します。


レイヤー1: 個人の心身が整っているか


睡眠、食事、運動、人とのつながり。

このような基礎が崩れている社員に、「やりがいを感じてください」と言っても響きません。


健康診断の有所見率、メンタル不調者の発生率、有給取得率。

これらが悪化している組織で、いくらサーベイを取っても、施策が機能する余地は少ない。


ここが、人事の方が見落としやすい第一の前提です。


レイヤー2: 組織との負荷バランスが取れているか


業務量、上司との関係、評価制度、心理的安全性。

個人が整っていても、組織側の「要求」が「資源」を上回り続けると、エンゲイジメントは下がります。


人事ができる介入:

・部署別の残業時間・有休取得率を可視化

・1on1の頻度と質を整える

・管理職向けラインケア研修の実施


レイヤー3: 適材適所かどうか


レイヤー1と2が整っても、根本的に「合わない場所」にいる社員のエンゲイジメントは上がりません。


産業医面談で、本来は力を発揮できる人が、合わない部署で消耗している場面によく出会います。


これは「退職勧奨」ではありません。

社内異動・配置転換・キャリア面談など、「自分が活きる場所」を選び直す制度が機能しているか、という観点です。


この3レイヤーをまず点検することで、サーベイや1on1といった施策が、初めて効きはじめます。


厚労省マニュアル準拠の実行ステップ


3レイヤーで土台を点検したら、厚労省マニュアルが示す体系的な実行ステップに進めます。


1. 体制づくり:経営層・事務局(人事)・管理職・従業員、それぞれの役割を明確化

2. 現状確認と課題の特定:サーベイで現在地を把握

3. 課題に応じた施策展開:全社方針浸透・1on1・職場ディスカッション・働き方整備など

4. 効果検証:振り返りとPDCA


マニュアルでは、メルカリ・ブラザー工業・TOPPAN・橋本組(中小建設業)など、規模も業種も異なる10社の先進事例が紹介されています。「うちの規模では…」と止まる必要はありません。


産業医として伴走している私のスタンス


私は産業医として、人事の方の「サーベイ結果をどう動かすか」だけでなく、「サーベイをやる前にレイヤー1・2を整える」フェーズから一緒に設計しています。


具体的には:

健康診断結果の組織分析:部署別の有所見率から「整っていない部署」を特定

メンタル不調発生のパターン分析:負荷の偏りを定量化

管理職向けラインケア研修:自身のチームのレイヤー2を見る視点を渡す

WellFitプログラム:運動・食事・睡眠の整備を組織で進める


産業医を「月1回の面談者」として使い切るのは、もったいない使い方だと私は思っています。


エンゲイジメント施策と産業医の機能を連動させることで、「整える土台」と「やりがいを生む施策」が初めて噛み合います。


まとめ


従業員エンゲイジメントを上げるには、サーベイや1on1を始める前に、3つのレイヤーで土台を点検することをおすすめします。


・レイヤー1:個人の心身が整っているか

・レイヤー2:組織との負荷バランスが取れているか

・レイヤー3:適材適所か


精神障害の労災請求件数は2023年度に3,575件と過去最多を更新しています(厚労省, 2024)。


施策を急ぐ前に、まず足元から。

それが結果的に、エンゲイジメントを最も早く上げる近道だと、私は産業医として感じています。


なべふぁが提供できること


株式会社なべふぁでは、産業医契約・WellFitプログラム・健康経営支援を通じて、エンゲイジメント施策の「土台づくり」フェーズから人事の方をサポートしています。


「サーベイは取っているが、次の一手が見えない」

「経営層に健康経営の意義を伝えるデータが欲しい」

「管理職向けの研修を設計したい」


こうした課題感のあるHR・経営層の方、お気軽にご相談ください。



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なべふぁ代表/産業医・心療内科医 薮野淳也


Stay Fit Clinic(働く人のための内科・心療内科): https://www.stayfitclinic.tokyo

CrossFit Aoyama(厚労省認定の運動療法施設): https://www.crossfitaoyama.com

著書『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ): https://www.amazon.co.jp/dp/4121508297

 
 
 

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