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カスハラ対策が企業の義務に|産業医が解説する法改正の要点と今やるべき5つの対応

  • 執筆者の写真: Nabefa
    Nabefa
  • 3月30日
  • 読了時間: 7分

「最近、顧客対応の部署でメンタル不調が増えている気がする……」

「カスハラ対策、うちもやらないといけないのはわかっているけど、何から手をつければいいかわからない」


こうしたご相談を、企業の人事担当者の方からいただくことが増えました。


私、薮野淳也は産業医として15社以上の企業で健康管理に携わっていますが、ここ数年で明らかに増えたのが、顧客対応によるメンタル不調の相談です。


2025年4月には東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行され、国レベルでも措置義務化の法改正が進んでいます。「うちはまだ大丈夫」では済まない時代に入りました。


この記事では、カスハラをめぐる最新の法制度の動きと、企業が今すぐ取り組むべき具体的な対策を、産業医の立場から解説します。


カスハラ対策が企業の義務に|産業医が解説する法改正の要点と今やるべき5つの対応
カスハラ対策が企業の義務に|産業医が解説する法改正の要点と今やるべき5つの対応

カスハラの現状――数字で見る深刻さ


まず、現状を確認しておきます。


労災認定が倍増している


厚生労働省「過労死等の労災補償状況」によると、カスタマーハラスメントを原因とする精神障害の労災認定件数は108件(令和6年度)。前年度の52件から倍増しています。


2023年9月に精神障害の労災認定基準が改正され、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが独立した心理的負荷要因として明記されました。つまり、カスハラで従業員が壊れたら、それは労災として認められるということです。


10人に1人が被害を経験している


厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年5月公表)によると、


・過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を経験した労働者の割合は10.8%

・カスハラ被害者のうち、46.2%が「仕事への意欲が減退した」と回答

17.1%が「眠れなくなった」5.8%が「通院・服薬した」と報告


10人に1人というのは、決して少ない数字ではありません。50人の会社であれば5人が経験している計算です。


対策している企業はたった2割


同じ調査で、カスハラについて「対策を取っている」と回答した企業の割合は21.2%。パワハラ対策(86.2%)やセクハラ対策(83.7%)と比較すると、著しく低い水準です。


対策を取っていない理由としては、「顧客等からの迷惑行為の実態を把握していない」(32.7%)、「対策の取り方が分からない」(22.4%)が上位に挙がっています。


率直に申し上げると、「実態を把握していない」こと自体がリスクです。見えていないだけで、現場では起きている可能性が高い。


法制度の動き――「努力義務」から「措置義務」へ


東京都条例(2025年4月施行)


2025年4月1日、全国初のカスタマーハラスメント防止条例が東京都で施行されました。


罰則規定はありませんが、以下の責務が定められています。


顧客等の責務: カスハラを行ってはならない

事業者の責務: 顧客等にカスハラを行わせないための必要な措置、及び就業者を保護するための必要な措置

就業者の責務: 顧客等にカスハラを行わないよう努める


東京都は事業者向け・就業者向けのガイドラインも策定しています。東京都内で事業を行う企業は、対応が求められます。


国の法改正(措置義務化)


2024年12月、労働政策審議会がカスハラ対策の法制化を建議しました。労働施策総合推進法の改正により、パワハラと同様に事業主に対するカスハラ防止措置が義務化される方向で国会審議が進んでいます。


具体的には、以下の措置が義務化される見通しです。


・事業主の方針の明確化と周知啓発

・相談体制の整備(相談窓口の設置)

・カスハラ発生時の迅速かつ適切な対応

・被害者のメンタルヘルスケア

・プライバシー保護、不利益取扱いの禁止


パワハラ防止法(2020年施行)と同じ流れです。措置義務ということは、対応していなければ行政指導の対象になり得るということです。


産業医の立場から見た「本当のリスク」


法改正への対応はもちろん重要ですが、産業医として私が最も危惧しているのは、カスハラが「見えにくい」ことです。


パワハラやセクハラは社内の問題なので、相談窓口に報告が上がりやすい。でもカスハラは、「お客様だから仕方ない」「クレーム対応は仕事のうち」という意識が根強く、被害を被害として認識できていないケースが多い。


産業医面談でも、最初は「最近ちょっと眠れなくて……」という相談から入って、よくよく聞くと顧客からの暴言が半年以上続いていた、ということがあります。本人も「これがカスハラだ」とは思っていなかった。


2023年の労災認定基準改正で、カスハラが独立した心理的負荷要因として認められたことは大きな転換点です。企業がカスハラへの対策を怠った結果、従業員が精神障害を発症した場合、安全配慮義務違反を問われるリスクが高まったということを意味しています。


「会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった場合」は、心理的負荷が「強」に修正される――つまり、放置すること自体が企業のリスクになります。


企業が今やるべきカスハラ対策への5つの対応


厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年策定、2024年改訂)に基づき、産業医として特に重要だと考える5つの対応を整理します。


1. トップメッセージの発信


「従業員をカスハラから守る」という経営方針を、社内外に明確に発信してください。


これが最も重要で、かつ最もコストがかからない施策です。トップが「理不尽な要求から従業員を守る」と宣言するだけで、現場の心理的安全性は大きく変わります。


2. 判断基準の明文化


「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引きを、社内で明文化しておく必要があります。


現場で判断に迷う場面が多いのがカスハラの特徴です。「どこまでがクレーム対応で、どこからが毅然と対応すべき行為なのか」を、具体例と共にマニュアル化することが重要です。


3. 相談窓口の整備


既にパワハラ・セクハラの相談窓口がある企業は、カスハラも同じ窓口で受けられるよう拡張するのが効率的です。


ポイントは、「相談したら報復されない」「上司に筒抜けにならない」ことの担保です。窓口があっても使われなければ意味がありません。


4. 従業員研修の実施


管理職向け(対応判断・部下保護)と一般従業員向け(初期対応・記録の取り方)の両方が必要です。


特に管理職には、「部下からカスハラの報告を受けたときに、どう対応するか」を具体的にトレーニングする必要があります。「お客様のことだから我慢しろ」は、もはや安全配慮義務違反のリスクがある対応です。


5. 被害者ケアの体制構築


カスハラ被害を受けた従業員のメンタルヘルスケアを、産業医やEAP(従業員支援プログラム)と連携して行う体制を整えてください。


必要に応じて配置転換や業務変更といった配慮措置も検討する。カスハラ起因のメンタル不調からの復職においては、同じ顧客対応業務への復帰の可否を慎重に判断する必要があります。


産業医だからこそできること


カスハラ対策は、法務部門やコンプライアンス部門だけの仕事ではありません。従業員の健康を守るという観点では、産業医が果たす役割は大きいと考えています。


健康相談での早期発見: 定期面談やストレスチェック後の面接指導で、カスハラ被害の有無を確認するルーティンをつくる

衛生委員会での提言: カスハラが発生しやすい部門の特定と、組織的対策の助言

復職支援: カスハラ起因の休職者に対する復職プログラムの設計


なべふぁの産業医サービスでは、法令遵守にとどまらない「従業員が健康的に働ける仕組みづくり」を企業と一緒に進めています。カスハラ対策も、メンタルヘルス研修やストレスチェックの集団分析と組み合わせることで、より実効性の高い取り組みが可能です。


また、カスハラ被害でメンタル不調をきたした従業員には、グループ内のStay Fit Clinic(心療内科)で早期の治療介入を行い、CrossFit Aoyama(指定運動療法施設)での運動療法も含めた回復支援を一貫して提供できます。


まとめ


・カスハラの労災認定は108件に倍増。対策を怠れば安全配慮義務違反のリスクがある

・東京都条例は2025年4月に施行済。国の措置義務化も進行中

・対策している企業はまだ21.2%。今から準備を始めれば十分に間に合う

・最も重要なのは、トップメッセージの発信と「放置しない仕組み」の構築

・産業医と連携することで、法対応だけでなく従業員の健康保護まで一貫した対策が可能


「お客様だから仕方ない」で従業員が壊れていく時代は、終わりにしなければいけないと思っています。


カスハラ対策を含む産業保健体制の構築について、お気軽にご相談ください。




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